ガラスの境界、丘の向こう
 眞奈はメイドの女の子の言葉を思い出して、カメリアハウスを確認しながら窓のある廊下を歩いた。

 眞奈にとってはマーカスの論理的な説明よりもジュリアたちの謎のような説明の方がわかりやすかった。

 三度廊下が分かれていたが、眞奈は常に窓がある廊下や階段を選び、順調に一階に向かった。やがて廊下は行き止まりに。

 しかし、よく見るとつきあたりを右に曲がる通路の先に小さなドアがある。
 
この時代は現ウィストウハウスにいたるところに存在している防火扉はまだできていなかったので、その小さなドアは廊下の行く手をさえぎる初めての扉だった。

 ドアには小窓がついていて、小窓から先の様子をうかがったが、向こうは暗くて何も見えなかった。

 眞奈は一瞬ためらったものの、思い切ってその扉を開けた。狭い下り階段になっている。

 『窓のない階段通路』とメイドの子は言っていたが、これのことだろうと納得した。

 階段は暗闇につつまれていた。

 今開けているドアから漏れる光で、階段を下りた先にもドアがあるように見える。

 でも、扉を閉めたら小窓からかすかに差し込む光以外に明かりはない。階段は文字通り真っ暗になるはずだ。

「大丈夫。ジュリアを信じよう」、眞奈はつぶやいた。

 眞奈は黒い闇の中、手探りで一歩ずつ階段を下りた。暗闇の果て、やっと階段の一番下にたどり着きドアを開ける。

 突然明るい空間に身を置くと、まぶしさに目がくらんだ。

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