ガラスの境界、丘の向こう
 なんか猫がふっと突然消えたような感じがするのは、気のせいだということにしよう、そうしよう、眞奈は思った。

 今日は道に迷ってクタクタだし、亡霊にも四人会って来たし、本日分としてはもう十分だ。
 不思議な黒猫の登場を受けとめる心の余裕は残っていない。

 しかし、面倒なこととはこちらの都合おかまいなしに、たたみかけて起こるものらしい。

 やっと気持ちが落ち着いてきたのもつかの間、眞奈は廊下を曲がった瞬間、大きな悲鳴をあげるところだった。
 いや実際悲鳴をあげたのだが、驚きのあまり喉の中に悲鳴を飲み込んだのだ。

 今度は亡霊ではない。亡霊ではないが眞奈を一番驚かせる人であった。

 どうしてこんな辺ぴな場所にいるのか、窓ガラスの向こう、屋根の上でマーカス・ウェントワースがスケッチブックに絵を描いていたのだ。
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