ガラスの境界、丘の向こう
 眞奈はイギリスで唯一友達のウィルに『窓の魔法使い』について話したことがある。

「ねぇねぇ、ウィル。私、絶対イギリスには『窓の魔法使い』がいると思うの!」

「窓の何だって? え? 窓の何だって?」、ウィリアム・ランバートはぶしつけにも二度聞き返した。

「『窓の魔法使い』だよ」、眞奈は繰り返した。

 ウィルは大真面目に言った。
「なぁ、マナ。俺はいつも迷うんだよな。おまえのあやしげな英語が間違っていて意味が理解できないのか、それとも言葉は関係なくって、おまえの元々の言いたいことが意味不明で理解できないのか」

 眞奈はやけになって英単語を一区切りごと発音し、もう一度言ってみた。

「だから、『窓・の・魔・法・使・い』だってば! どう、これで理解できたでしょ?」

 もしもこれでまだ通じないなら、単語の綴りをアルファベット読みしようと、眞奈は身構えた。しかしながら、なんとか通じたらしい。

 ウィルは合点がいったというふうにうなずいた。
「なるほど、どうやら英語にはなってるようだな……。つまり、今の場合は言葉の問題じゃなく、おまえの元々の言いたいことがあやしいから理解できないってわけだ」

 眞奈はむっとして言った。
「もう、イギリスはファンタジーやSFの国のはずでしょ、ウィルはファンタジーの国生まれじゃない。なんでイギリス人のくせに魔法使いをバカにするの?」

 ウィルはうっすらと嘲笑を浮かべた。
「べつにバカになんてしてないぞ。魔法使いもファンタジーも一大輸出商品だしな。で、おまえの窓の魔法使いとやらは……、そいつはどんな魔法が使えるんだ?」

「へ? えーと、そうね……」、そこまで考えていなかった眞奈は返事につまった。
「そうそう、窓を操って、窓の向こうのパラレルワールドに行けたり、窓ガラスに未来や過去を映し出したりできるの!」、眞奈は彼の魔法スキルをなんとかひねり出した。

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