夢の焼け跡
「ここの家賃も結構高いでしょう?
裕也、おぼっちゃん?」
親は大企業の社長でもないし
おぼっちゃん…とまでは言えないにしても
父親は一流企業の管理職。
普通より遙かに良い暮らしをしてるのは確かだった。


「まぁ…裕福な方かな。」

「良いね。」

「良くなんかないよ。
親は勉強しろ勉強しろってウルサいし、高校だって大学だって、親が決めたとこ受けさせられたし…」

思わずしかめ顔になりながら不平をもらす。

それでも明日香は少し寂しげに微笑み、

「羨ましい…。」

そう言った。



その時の裕也には、明日香のその悲しい笑顔の意味なんて知る由も無かった。


「あっ、そうだっ!」

その空気を払拭する様に明日香が手を叩いた。

「裕也、もう夏休みでしょ?
今日の予定は!?」

「え、よ、予定…?
今日は特になんもないけど…」

「じゃあさ、私のワガママひとつ聞いてくれない?」

「…なに?」

「海行きたいっ」

「…海…?いまから?」
「うん。駄目?」

「駄目じゃないけど…」けど…何故唐突に海なのか裕也は少し疑問に思った。
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