教えて、空の色を
依頼人
その人は…儚げだった

「あの…河野さん…ですよね?」

「ん?…河野です…が?」

「あの駅前の美術館の前の大きな木のオブジェを作った方…ですよね?」

確かに数年前、新しい美術館の前に置くオブジェのコンテストがあってそれで優勝してオレの作品が置かれている

自分でも良くできたやつだ…

「おお。見た?」

「はい」

目の前のオンナノヒトは小さく微笑んだ

通った鼻筋…綺麗なカーブを描く眉
透き通るように白い肌、サラサラの髪

大きな目はその整った顔から零れ落ちそうだ

間違いなく美人
だけど…

(寂しそうに微笑むヒトだ…)

「で…あんたは?」

「あの、私は…こういうものです…」

女性が差し出したのは名刺で

「ベーカリー…パン屋…さん?」

「はい。ベーカリー『Baum』の嵯峨紗由理と申します。
…あのオブジェを作った貴方にぜひお店の看板を描いていただきたくて参りました…」

「看板?専門外だけど?」


「承知しております…でも…あなたに書いて欲しいんです…」

初めて君と出会ったのはこの時だ

寂しそうな微笑みと何か強い意思のある目が印象的で
なんとなく話を聞いてみたい

…そんな風に思った

「オレのことどうやって調べたの?」

オレは雑貨屋の店主
元々は絵描きで…生活のために絵を書いて、それを色んな小物に仕上げたり
小さな家具や文房具なんかのデザイナーもやっていて…あれこれやってるわけだけれど

殆ど1人でやっていて、特に宣伝もしていないから
固定客しかこない雑貨屋だ

「あの私、アキラくん…遠山アキラさんの同級生なんです…探していたら…あの作品は河野さんだよって…」

「あー。なるほど…」

「アキラくんの…同級生…」

(ってことはお嬢様なのか)

遠山アキラ君は付き合いのあるデザイン会社の顧問弁護士で個人的にも仕事でお世話になっているし、プライベートもなぜか気が合って…たまに飲みに行く仲だ

都内の名門大学出身でそこは成績も去ることながら、お金持ちが集まるのでも有名な学校だった

「金持ちのお嬢さんの気まぐれ?ならお断りだけど」

そんなオレの顔色を読んだのか紗由理さんは慌てたように訂正してきた

「お嬢さんじゃありません…小学校までなんです…あとは転校しちゃったりだからご心配するような冷やかしなどではないです!…で、あ、あの…お引き受け頂けますか?」

不安そうに見上げる紗由理さんは華奢な身体と潤んだ瞳が…小鹿のようで

……思わず

(弄りたくなるな…)

なんて思った

「いーよ。店みて気に入れば…やってやるよ。まずは店、教えて…今から時間空くから連れてってよ。それから…あんたのことも…教えてよ、イロイロ、ね?」

いつもオンナにするように誘うように目線を這わせてみたが…

「はい!自己紹介も、きちんとします!道すがら!」

まるで手応えがなかった

(そー言う意味じゃねーけど…ま、いっか)

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