教えて、空の色を
「紗由理ー、よしよし…」

誤魔化すようにそう言うと
モゾモゾと紗由理が離れようと動き出すから

「離れんな」

そう言って少しだけ力を込めて抱きしめ直す

「や……だっ……」

「うるさい……いいから暫くこうさせろ…」

オレがこうしてたいんだから……

そんな意味を込めてきゅっともう一度胸に引き寄せると
紗由理が小さく呟いた

「ごめんなさい……」

バターやパン香りの中、抱きとめた紗由理の身体は
抱いてきた女たちより骨ばっていて華奢だった

(抱いたら…折れちゃうんじゃないか?)

って、何考えてんだオレ

「謝る必要なんかねーし」

「あの……えと、もう大丈夫……だからは、離して?」

ゆっくりと身体を離すと真っ赤な目をした紗由理がこちらを見上げていた

大きな目が今にも雫を落としそうに潤んで
その中にオレが映ってる

「来てくれて……有難う…」

ポツリと紗由理の声が空気に溶けた

「優しいからなオレは」

「うん……」

冗談で言ったのに紗由理はあっさり頷くから、固まってしまう

「何があったか聞いていいか?」

「うん……来てくれて助かったの…あのね…」

そこから紗由理が話してくれた内容は……
ちょっとハードなものだった

「ここで働く前は高校を卒業して紳士服の販売店で
働いてたの…そこでフィッターとしての仕事を教えて貰っていたんだけど…その教育係がね……」

紗由理はそう前置いてから話しだした……

初めは単なるボディタッチだけだった

「嵯峨さんは可愛いし、清楚な雰囲気で歳上のお客様にも好感を持たれそうだね」

なんて言われながら腰の辺りを触られたり

嫌だなとは思ったけど…上司だしと気にしないようにしてたが

そのうちバックヤードで抱きつかれたり

帰りに強引に食事に誘われたり……まだ未成年だった私に飲んでと強要したり…挙げ句の果てには

「大人の恋愛を教えてあげるよ」

なんて……ラブホテルに連れ込まれそうになり

ホテル街の入り口で必死で抵抗して断ったら

路上で引き倒されて罵倒された

「お前なんか……下っ端のくせに!!
生意気なんだよ、どうせその貧相な身体なんて誰も抱きたがらないだろうから同情してやったのに!
クビにするように上に進言するからな」

それからその上司はいつ撮ったのか
自分が迫った時の私の写真を撮っていて……
それは上手く私が誘うかのように写っていたのもあり

「つきまといが酷くて」

と、店長とスーパーバイザーに報告し…
ソレは信じられたようで…私は
クビになった

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