教えて、空の色を
中に案内されると店内は明るくて
バターの甘い香り、パンの香ばしい香りに鼻がヒクヒクしてしまう

(匂いまでウマそ……)

「何か召し上がりますか?……とはいえあまりもう残っていませんけど…」

棚を見ると確かにほぼ空っぽで

ひとつだけ、棚にぽつんと残された丸いパンに目が行った

「これ、ちょうだい」

すると紗由理は少し恥ずかしそうにつぶやいた

「有難うございます…それ、私が作ったんです…」

「そうなんだ?」

主には兄さんが作っているがいくつか作っているようで…

「はい、ちょっと形がいびつで残っちゃいました、ね」

確かによく見れば真ん丸ではなかったけれど…
紗由理を知りたくてついてきたのだから、紗由理が作ったパンがあってよかった

「オレにはちょうどよかったよ」

「え?」

「だって…それ、あんたが作ったんでしょ?…あんたが作ったもんを食べたかったから……よかったよ」

そう言ったら…白い頬に赤みがさして
その少し綻んだ口許にドキリとした

(え…あ、可愛いな…)

「有難うございます……温めますね?そちらに座っていてください」

ササッとトングでパンを取ると奥に入っていった紗由理…

椅子に座っていると
目の前に迫力の美男子が座ってこちらを睨んできた

「紗由理を口説くなんてことしたら………タダじゃおかねーぞ?」

「あのなぁ……オレは依頼されてきたの、ナンパしてきたわけじゃねーよ」

そりゃああんな美人だし、あわよくば…とは思ったけども

看板の仕事を受けるかどうかは
店をみてから決めようと思ったのは本当だ

モノを作ることに関してはプロだから、依頼されたら妥協はしない

「ならイイ……アイツは少し特殊だから…あまり深く関わって傷付けるなよ」

「はいはいシスコン……仕事だからちゃんとやるよっ」

ベーっと舌を出すと…イケメンが眉を釣り上げて蹴飛ばしてきた

「んだとコラ!」

「イテーな!」

パンを籠に入れて戻ってきた紗由理が慌ててイケメンを押しのけていた

「ちょっとやめてお兄ちゃん!」

「紗由理……深入りするなよ?」

「そんなんじゃないから!もう、先に上がって!奥さん待ってるよ?」

「……分かった…お疲れ様」

何か言いたそうなイケメンの目が気にはなったが
下がっていく彼にオレは頭を下げた

「お疲れ様でした」

その背中は無言だった








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