君の見る世界に僕がいた
ぶるっと体が震えた。
そこで上の空だった僕の意識は現実世界へと引き戻された。
今日借りる本を片手にカウンターへ向かう。
今日の彼女は本を読んでいた。
僕は彼女に向かって毎日交わす言葉をこぼす。
「この本借ります。」
たった一言なのにどうしてこんなにも胸が高鳴るのだろう。
彼女が本から目をあげる。
上目遣いになった大きな瞳が僕をとらえる。
胸がひとつまた大きく高鳴った気がした。
本の貸出の手続きを済ませた彼女は僕に本を手渡しながらいつものお決まりのセリフを言葉にする。
「はい、どうぞ。」
たわいもない会話。
その中のたったの一言。
でもどうしてだろう。
それだけなのに彼女が言う言葉はこんなにも僕の胸をわしづかみにする。
いつもならそこで会話終了。
僕は図書室から出ていく予定。
そう、いつもなら。
連日続く暑さのせいで頭がおかしくなったのか。
それとも気持ちがおさえられなかったのか。
僕は無意識にこう言っていた。
「図書室、好きなんですか。」
言ってから僕は我に返る。
動揺した。
いや、正確にはするはずだった。
動揺する前に彼女はあの日みたいに全てを包み込むようにふんわりと笑って
「はい、好きです。」
そう言った。
その後にこう続けた。
「君は、好き?」
僕の顔はどんな風になっているのだろう。
間抜けな顔をしてるだろうな。
でもそんなことを考えている余裕なんて今の僕にはなくて。
「好き、です。」
あぁ。またかすれた声が出た。
こんがらがる頭の中で少しだけ後悔をする。
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