君の見る世界に僕がいた
高校に入学してから1ヶ月が過ぎた。
桜の花も散ってしまって、代わりに新緑の若葉に目を奪われる季節となった。
僕は相変わらず無駄な時間を過ごしながら居場所を探していた。
僕の居場所はいつ見つかるのか。
そんなことをぼんやりと考えていたからみんなからの挨拶が聞こえてなかっただけなんだけどな。
ふと気づいた時に僕は"クールな人"になっていた。
「はぁ...」
無意識にため息がこぼれる。
またみんなの中の僕が作られていく。
「ため息なんてついてどうしたんだよ?」
突然聞こえた声に下に向いていた顔を持ち上げる。
「なんでもない。」
「ふーん。また考え事でもしてたんだろ」
そう言い残して自分の席に行く彼はクラスメイトの長谷川。
下の名前はなんだったっけ。
クラスの中心人物的存在で誰とでもすぐ仲良くなれるような人。
入学当初、僕が一番に声をかけられた人。
にかっと笑う太陽みたいな眩しい、人懐っこい笑顔が印象的だった。
入学式のことをぼんやり思い出していたら授業が始まってあっという間に放課後になった。
みんなからばいばいと声をかけられ終えて無駄に疲れた体を無理やり立たせて帰る準備を始めた。
カバンに荷物を詰めているとある1冊の本が目にとまった。
太宰治の走れメロス。
教科書にも乗っている有名な話。
その本は入学して間もなく図書室の説明をうけた時に借りた本だ。
そういえば1ヶ月も借りている。
返さなきゃな、と思った僕は2回目の図書室に行くことにした。
図書室は旧校舎にあった。
普段なら誰も立ち寄らないひっそりとした場所。
全ての音が遠くなって少しだけ僕が僕でいられる、そんな気がした。
図書室は独特の香りがした。
一回目には感じなかった香り。
きっと無駄に力が入って全てのことに精一杯だったからだろう。
僕は適当に本を一冊手に取った。
どうしてあの時走れメロスなんて借りたのだろうか。
今になってひどく後悔をしていた。
本を借りようとカウンターを見て僕は大げさなんかではなくて本当に5秒くらい息をするのを忘れてしまっていたと思う。
オレンジ色の西日が差し込むカウンターに座っていた女の子は僕が春に見た桜の木の下にいた子だったから。
またひどく胸が締め付けられた。
何も言えずに突っ立っていたらその子が顔を上げ僕の方を見た。
絡まり合う視線。
激しいくらいになる鼓動。
全てを包み込むようにふわりと微笑んでその子は言った。
「本、借りますか?」
静かな図書室に響いた透明な透き通る声。
「はい。」
かすれた声で僕は答えた。
桜の花も散ってしまって、代わりに新緑の若葉に目を奪われる季節となった。
僕は相変わらず無駄な時間を過ごしながら居場所を探していた。
僕の居場所はいつ見つかるのか。
そんなことをぼんやりと考えていたからみんなからの挨拶が聞こえてなかっただけなんだけどな。
ふと気づいた時に僕は"クールな人"になっていた。
「はぁ...」
無意識にため息がこぼれる。
またみんなの中の僕が作られていく。
「ため息なんてついてどうしたんだよ?」
突然聞こえた声に下に向いていた顔を持ち上げる。
「なんでもない。」
「ふーん。また考え事でもしてたんだろ」
そう言い残して自分の席に行く彼はクラスメイトの長谷川。
下の名前はなんだったっけ。
クラスの中心人物的存在で誰とでもすぐ仲良くなれるような人。
入学当初、僕が一番に声をかけられた人。
にかっと笑う太陽みたいな眩しい、人懐っこい笑顔が印象的だった。
入学式のことをぼんやり思い出していたら授業が始まってあっという間に放課後になった。
みんなからばいばいと声をかけられ終えて無駄に疲れた体を無理やり立たせて帰る準備を始めた。
カバンに荷物を詰めているとある1冊の本が目にとまった。
太宰治の走れメロス。
教科書にも乗っている有名な話。
その本は入学して間もなく図書室の説明をうけた時に借りた本だ。
そういえば1ヶ月も借りている。
返さなきゃな、と思った僕は2回目の図書室に行くことにした。
図書室は旧校舎にあった。
普段なら誰も立ち寄らないひっそりとした場所。
全ての音が遠くなって少しだけ僕が僕でいられる、そんな気がした。
図書室は独特の香りがした。
一回目には感じなかった香り。
きっと無駄に力が入って全てのことに精一杯だったからだろう。
僕は適当に本を一冊手に取った。
どうしてあの時走れメロスなんて借りたのだろうか。
今になってひどく後悔をしていた。
本を借りようとカウンターを見て僕は大げさなんかではなくて本当に5秒くらい息をするのを忘れてしまっていたと思う。
オレンジ色の西日が差し込むカウンターに座っていた女の子は僕が春に見た桜の木の下にいた子だったから。
またひどく胸が締め付けられた。
何も言えずに突っ立っていたらその子が顔を上げ僕の方を見た。
絡まり合う視線。
激しいくらいになる鼓動。
全てを包み込むようにふわりと微笑んでその子は言った。
「本、借りますか?」
静かな図書室に響いた透明な透き通る声。
「はい。」
かすれた声で僕は答えた。