浮気の定理-Answer-
飯島の場合③
それは僕が珍しく風邪をひいて寝込んでいたときのことだった。
普段は一人で気楽だと思っていても、病気になったりすると途端に心細くなる。
体温を計れば38度5分もあって、寒気がとれない。
ガタガタ震えながら、とりあえず店に電話をかけることにした。
店長は相変わらず迷惑そうな声で、それでも早く治せよと労いの言葉をかけてくれたけど、ちょっとだけ菊地さんの言う意味がわかった気がする。
具合が悪かったりすれば、なおさら気持ちよく休ませて欲しいと思うのは、僕のわがままだろうか?
スマホを持ったまま、僕はベッドに倒れこむ。
布団を首まで引き上げて、震える体を自分で抱き締めた。
いつの間にか眠ってたんだろう。
遠くでチャイムの音がした気がして目が覚めた。
――気のせいか?家を訪ねてくるやつなんかいないはずだし……
ボーッとした頭で、そんなことを思う。
無視してもう一度眠ろうかとも思ったけれど、喉がカラカラに渇いていることに気付いた。
――ついでだから出るか……
まだ熱い体をなんとか起こして、玄関へと向かう。
ドアを開けて外を覗くも、誰も見当たらない。
――なんだ、やっぱり気のせいか……
そう思って引っ込もうとしたとき、誰かの声が聞こえた。
「飯島さん!」