浮気の定理-Answer-
頭のどこかでもう一人の自分が叫ぶ。


――なに言ってるんだ?


こっちは風邪を引いていて、熱まであるわけで、彼女にうつしてしまうかもしれないっていうのに……


「いえ、お茶なんてとんでもないです!

具合悪いんですから、寝ててください

これだけ渡しに来ただけですから」


慌てたように断る彼女は、当然の反応だ。


だけど僕はまともじゃなかったんだろう。


どうしても彼女を帰したくなかった。


きっと熱のせいで、弱っていたのかもしれない。


「……あ、あの?」



彼女が戸惑ったように僕を見上げている。


そこではじめて自分が彼女の腕を掴んでいることに気づいた。


慌てて手を離しながら、なんとか彼女が帰らないでいてくれる方法を必死に考える。


「すみません、あの、じゃあ……

そうだ、お粥とか作ってもらえませんか?」


そして次に口から出た言葉は、そんな陳腐なものだった。


「お粥……ですか?」



案の定、怪訝そうな顔でそう聞き返した彼女だったけれど、それでも少しは留まる様子を見せてくれた。

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