浮気の定理-Answer-
呼吸を整えながら礼を言うと、ドアを押さえたまま、彼女が入るのを見届けた。


逃げられたくない思いもあったのかもしれない。


「……おじゃまします」


観念したようにそう言うと、おずおずと遠慮がちに僕の腕をすり抜けて部屋の中に入っていった。


ふらつく体を動かして、彼女のあとを追う。


キッチンの場所を確認しながらズンズン進んでいく彼女もまた、お粥を作るという名目を保とうとしているのかもしれない。


彼女に続いてリビングに入った途端、僕は部屋を見て後悔した。


何も考えずに彼女を招き入れてしまったけれど、昨日から具合が悪くて散らかり放題になっている。


目の前に立ち尽くす彼女に、こんな状態を見られて恥ずかしさでいっぱいになった。


「ケホッ……清水さんが来るって知ってたら……ゴホッゴホッ……もう少し片付けといたんですけど……

汚くてすみません」


そんな言い訳をするも、動揺したせいか、咳が止まらなくなる。


そんな僕の背中を慌てて擦りながら、彼女は心配そうに覗きこんできた。


――やべぇ……大丈夫か!自分!

< 111 / 350 >

この作品をシェア

pagetop