浮気の定理-Answer-
「じゃあ、私は外に出てますから、着替えてくださいね?

それでお粥も食べれそうなら一口だけでも食べて、薬を飲んじゃってください」


動揺する様子もなく、彼女は淡々とそう僕に言うと、お粥と薬を乗せたトレーを指差した。


ありがとうなのかすみませんなのか、何を言っていいかもわからずに、ただそのトレーに乗ったお粥を見つめる。


彼女が必死になかったことにしようとしていることを、わざわざ引っ張り出して謝るのも憚られた。


その気まずい雰囲気に、彼女が突然なにかを思い出したそぶりを見せたのは、そのあとすぐのことだった。


慌てたように時計に目を落としたのだ。


「あ、ごめんなさい!
もうすぐ娘たちが帰ってくる時間なので、帰ります」


そのタイミングを待ってたんだろうか?


僕も思わず壁にかかっている黒の縁取りをした丸い時計を見上げた。


それはどう見てもまだ小学生が帰る時間ではなかった。


だっていつもなら、清水さんがまだ働いてる時間だったから……


彼女はそれだけ言い残すと逃げるように部屋から出ていった。
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