浮気の定理-Answer-
そんな僕の思惑など何も知らないで、じゃあお言葉に甘えてごちそうになります、なんて彼女ははにかんだように笑った。


断られなかったことにホッとしている僕に、とびっきりの笑顔で……


言葉通りコーヒーをいれて、彼女にマグカップを手渡した。


彼女はそれを一口飲んで美味しいと嬉しそうに笑う。


僕と目が合うたびに、彼女は微笑んで、恥ずかしそうにまたマグカップに目を戻した。


シンとした真夜中の二人だけの空間は、やけに穏やかで居心地がいい。


ずっとこのままでいたい気分になりながら、時間を引き延ばしたくてわざとコーヒーをチビチビ飲んだ。


それでも終わりは訪れる。


ごちそうさまでしたと、彼女が席を立った。


キッチンへと向かう彼女の後ろ姿を目で追いながら、僕もその後に続く。


彼女がシンクにカップを置いた瞬間、僕も彼女の背中越しに自分のカップを置いた。


彼女の背中と僕の胸がこれ以上ないくらい密着して、たまらなくなる。


くすぶってた想いにまた火がつく瞬間――


気づいたら僕は彼女を後ろから抱き締めてた。

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