浮気の定理-Answer-
娘たちを置いて、自分の元へなど来るはずがなかったのに……


だって僕はあの時、そんな自分の気持ちを一つも彼女に伝えてはいない。


僕が彼女をまるごと受け入れる覚悟をしていたなんて、彼女は知るはずもないのだ。


ごめんと謝ってしまった時点で、責任を取るつもりはないんだと彼女に思わせてしまったのかもしれない。


だから、あのとき僕に気を遣わせまいと言った彼女の言葉。


「大丈夫だから……」


安全日なの、と。


どんな気持ちで彼女はそう言ったんだろう?


その時の彼女の不安な色を押し込めたような笑顔を思い出す。


結局、僕はなにもしてあげることは出来なかった。


彼女は一人で悩み、考え、そして自分自身で答えを出したのだ。


僕の元から去ることを……


彼女は……元気だろうか?


会えないのならせめて、彼女の幸せを願わずにはいられない。


自分がそれをぶち壊したのにもかかわらず……だ。


仕事をしながら、いつも彼女が掃除していた場所を見るたび、そんなことを思う。


もうこの場所に彼女はいないんだということを思い知らされながら……
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