浮気の定理-Answer-
「やあね?気持ち悪い

なんか疚しいことでもあるんじゃないの?」



そう言われて初めて俺は、自分が失敗したことに気づいた。


普段は何も言わない夫が、急に妻を誉めたりするのは、疚しいことがある証拠だと、テレビの浮気特集か何かでやっていたような気がする。


俺は妻にわからないように唾を呑み込み、一旦呼吸を整えてから、わざと呆れたように言った。



「何を言ってんだ

たまに誉めて怒られたんじゃ、誉め損だな?」



慌てちゃダメだ。


ここは自然に、いつもと変わらないように話さなければ……


その甲斐があってか、妻は気まずそうにカウンター越しに俺を見た。




「そんなつもりじゃないけど……

あなたが滅多に言わないようなこと言うから………」




まだ少し疑うような、でもこれ以上、俺の機嫌を損ねたくないような、そんな微妙な顔で智子は呟く。



「そうか、じゃあ不満の一つでも言った方がよかったかな?」



自分が動揺していることを悟られないように、必死に普段と変わらない表情を作ってそう言った。




「そうじゃないけど……」




今度は智子の方が困ったように言葉を濁したけれど、すぐに気持ちを切り替えたのか複雑な笑みを見せる。




「ごめんなさい、変なこと言って悪かったわ?」



そして最終的には妻が折れて、その場は収まった。

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