浮気の定理-Answer-
好きなんですと小さく聞こえたような気がした。


俺の胸に顔を埋めたままだから、声がくぐもって聞こえる。


聞き違いか?と、やり過ごそうとしたとき、もう一度聞こえてくる、今度ははっきりとした口調。




「好きなんです!」




とっさに彼女とのこれまでを思い出してみる。


そんな風に思ってくれるような、勘違いさせるような言動を俺はしただろうか?


頭を巡らせてみても思い出せない。


ふと桃子の顔が浮かんだ。


俺には妻がいる。


そのことは、彼女も承知しているはずだ。


なのになぜそんなことを言う?


好きだと伝えてそのあとは?


俺に不倫でもしろと言うんだろうか?


冷静になれ。きっとなにかの気の迷いだ。


ここで冷たく拒否して店をやめられでもしたら、そっちの方が俺には大問題だ。


確かに可愛い。それに若い。しかも気立てもいい。


俺みたいなおっさんじゃなくても、いくらでも相手はいそうなのに……




「紗英ちゃん!ちょっと待った!急にどうした?」




なるべく優しく逆撫でしないように聞いてみる。

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