浮気の定理-Answer-
「急じゃ……ないんです」
「え?」
「私、ずっと店長のこと好きでした」
しがみつくように俺の背中に手を回して、彼女はそう言った。
小さくて華奢な体は、今にも壊れてしまいそうなくらい震えていて、俺はどう答えていいのか戸惑った。
もちろん、断るのが大前提だけれど、言い方によっては彼女を傷つけてしまうかもしれない。
彼女に店を辞められるのは、痛手だった。
だからなんとか丸くおさまるように、うまく説得したい。
最初はそんな気持ちの方が強かったと思う。
「……気持ちはすごく嬉しいよ?
紗英ちゃんみたいに若くて可愛い子に好きだって言ってもらえて、正直悪い気はしない
でも、俺には家庭があるだろ?
そんな家庭持ちのおじさんより、紗英ちゃんにはもっと似合う人がいると思うよ?」
優しく諭すようにそう言って、彼女の頭をポンポンと叩いた。
それでも彼女は俺から離れない。
それどころか、俺の腰に回した手が、さっきよりも強く抱き締めてくる。
「紗英ちゃん……」