浮気の定理-Answer-
おまけに俺よりも収入は上で、自宅マンションの家賃も桃子が払ってくれていた。


俺には店の維持費があるんだから、気にしないでと言いながら、本当は折半するはずだった食費でさえ、いつの間にか桃子が出している始末だ。




『雅人は光熱費を払ってくれてるんだからいいのよ?

それよりお店の方を頑張って?』




紗英の言ってることに間違いがあるとすれば、桃子は店の状況をきちんと把握していることだろう。


そして店を手伝うことよりも、金銭面でサポートしてくれているのだ。


しかし、その事実を紗英に話すのはなんとなく憚られた。


妻に養ってもらってるなんて思われたくないという、俺のささやかなプライドだったのかもしれない。


後ろめたい気持ちがなかったといえば嘘になるが、ずっとそのことには蓋をして気付かないふりをしていたのだ。


それが今、目の前のこの子によって、事実が事実として、こじ開けられてしまう。


一点の曇りもない桃子への思いに、黒く小さな一滴のシミがポツンと落ちたような、そんな気がした。

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