浮気の定理-Answer-



あれから一年。


一滴だけ落ちたはずの黒いシミは、そこからどんどん広がって、今ではそれがシミだったこともわからないほど真っ黒だ。


紗英に言われたセリフが、頭の中にこびりついて、いつしか桃子への信頼は失われつつある。


店を手伝わないことへの不満と、収入面での負い目。


それがどんどん膨らんで、桃子に対する愛情さえも疑うようなった。


桃子に手伝ってくれと言ったこともないくせに……


彼女の収入が少なからず助かっていたはずなのに……


男として、自分が情けないことを認めたくなくて、悪いのは全部桃子なんだと、責任転嫁していた。


それは紗英がいなければ気付かなかった、自分の中にある小さなプライド。


紗英がそばにいることで、気が大きくなったのかもしれない。


あの日からことあるごとに、店長、店長と慕ってくる彼女が可愛くて、守ってやりたいという思いが芽生えていった。


その反面、自分に頼ることなく堂々としている桃子が可愛いげがないように感じて、自宅よりも店にいる時間の方が多くなっていく。

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