浮気の定理-Answer-
俺はホッと胸を撫で下ろす。


智子とも真由とも、別れたくないというのが本音だった。


都合がいいとは思う。


けれど安心出来る家庭と、危険な情事を天秤にかけてみても、どちらかが傾くことはなかった。




「食事、済んだならお風呂入っちゃったら?」




「あぁ……そうだな?じゃあ、風呂入ってくるよ」




妻からそう促されたのをいいことに、俺はその場から逃げるように立ち去った。




――うまくごまかせただろうか?




少しだけ不安になる。


真由と過ごしたホテルでは、なるべく石鹸を使わないようにしていた。


仕事から帰ってきたというのに、石鹸の香りなんかさせていたら、浮気をしてきましたと言ってるようなものだろう。


ホテルではお湯で軽く体を流すだけにして、帰りには駅の喫煙コーナーで、敢えて煙を浴びて匂いをつけたりすることもある。


バレないための努力はしてきたつもりだ。


湯船に浸かり、真由を思う。


ただそれだけで、体の中心が疼いてくる。


もし、妻にこの事がバレた時、はたして俺はどちらかを選ぶことが出来るんだろうか……
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