浮気の定理-Answer-
木下の場合②
「最近、遅いのね?
忙しいのはいいことだけど」
何気ない顔で首を傾げながら、桃子はそう言ってニッコリ笑った。
「あぁ……まあ、そこそこかな?」
俺も何気ないふりをして、新聞から目を離さずに返事をする。
珍しくお互いの休みが重なった朝のことだ。
とは言っても、俺の店は火曜日が定休と決まっているから、桃子が合わせて休んだのだけれど。
『有給がたまってるの』
そう言ってわざわざ俺の休みに合わせた桃子は、なにか感づいているのかもしれない。
なぜなら、今まで一度だってそんなことはなかったからだ。
盆と暮れの休みは合わせていたけれど、こんな急に、しかも俺のために平日の休みを取るのは珍しい。
いつも毎月、高校時代の同級生たちと、映画と食事をするために休みを取っているのは知っていた。
結婚式で会ったから、その友達たちと面識もあったし、一番最初に桃子とうちの店に食べにきたのは、確かそのうちの一人だ。
「せっかく休みが合ったから、どっか行く?」
簡単な朝食を食べ終えて、ソファーで新聞を読んでいた俺に、桃子は普段よりも饒舌に話しかけてくる。