浮気の定理-Answer-
だからこそ、手放すのが惜しいと思う。


ここまでじっくり開発した桃子の体は、俺にしっくりと馴染んでいたし、普段、桃子に対して卑屈な思いをしている俺が、ベッドでだけは優位に立てた。


体だけは俺を満たしてくれる。


紗英とのそれは、桃子とは真逆だった。


若いだけあって弾力のある肌が魅力だけれど、桃子に比べて未熟であり幼かった。


けれど、店長ぉ……と鼻にかかった甘えた声でしがみついてくる紗英は、可愛くて愛しい。


そんな狭間でどちらも手放せず、俺は美味しい汁だけを吸っていたのかもしれない。


それが崩れたのは、つい先日のことだ。


それは紗英の一言で始まった。


今まで、桃子とは叶わなかった秘かな思い。


それを紗英なら叶えられるかもしれないという希望に胸が躍った。


離婚の二文字が頭をよぎったのは、紗英との関係が始まってから初めてのことかもしれない。


けれどまともに話し合えば、俺が不利なことは明確だった。


慰謝料など払うことになれば、紗英との新しい生活が苦しくなる。

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