浮気の定理-Answer-
少しでも桃子に弱味を握られるわけにはいかない。


だからわざと冷たい笑顔で言い放ったのだ。




「今度から遅くなることがあっても、寝てていいから」




目を見開いて、明らかに傷付いた顔をした桃子から逃れるように、俺はフイッと横を向いた。


そしてそのまま浴室へと急ぐ。


紗英の家で一緒にシャワーは浴びたけれど、ボディソープはうちとは違う銘柄だ。


もし、それに気づかれたりしたら、面倒だと思った。


今の桃子にそんな余裕はないかもしれないけれど、万全にしておきたい。


小さな綻びから、その穴がだんだん大きくなることだけは避けたかった。


綻びさえも作らないことが、大事なのだ。


シャワーを浴び終えて、髪をタオルで拭きながらリビングに戻ると、そこに桃子の姿はもうなかった。


ホッとしながらキッチンに向かうと、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。


キャップをひねりふたを開けると、一口水を口に含んだ。




「ふぅ……」




あとどれくらいこんな生活を続ければいいんだろう?


早く紗英との新しい生活を始めたい。


けれどまだ二人で生活するための資金が、充分に貯まってはいなかった。

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