浮気の定理-Answer-
桃子を抱かなくなった分、紗英に夢中になるのは当然のことだったろう。


けれど紗英の一言はそんな俺に衝撃を与えた。




「赤ちゃんが……出来たみたいなの」




一瞬、頭が真っ白になった。


それは俺の計画が崩れたことを意味する。


ゆっくりと金を貯めて桃子と離婚するはずだった俺の計画。


だけどそれ以上に、父親になる喜びの方が勝っていた。


桃子では決して叶わなかった思い。


金はまだ予定には程遠いけれど、桃子の方はもう充分すぎるくらいに弱っている。


今ならば、慰謝料なしに離婚を進めることは可能だと思えた。


黙ったままの俺を不安げに見上げる紗英の頬を、両手でそっと包み込む。


それから優しく微笑みながら、ゆっくりと顔を近づけていった。


唇に触れるだけのキスをして、そのまま彼女を抱き締める。


「ありがとう、紗英……
きちんと離婚するから……生んでほしい」


俺の胸に顔を埋めている紗英から、しゃくりあげるような嗚咽が漏れ聞こえてくる。


そして泣きながらありがとうと小さく言った紗英を、俺はさっきよりももっと強く抱き寄せた。

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