浮気の定理-Answer-
木下の場合④
「ほんと!?嬉しい!」
そう声をあげて抱きついてくる紗英を、俺はあの可愛らしいピンクの部屋に入らないまま、自分の胸で受け止める。
玄関を開けて中に入れてくれようとした紗英を見た途端、早く言いたくてたまらなくなったのだ。
桃子に離婚を切り出したことを……
「ほんとだよ?あっちもちゃんと了解してくれた
長く待たせたけど、これで紗英を俺の奥さんに出来るよ」
彼女の髪の匂いが鼻をくすぐる。
この匂いを嗅ぐと妙に安心した。
俺の心がもうすでに、紗英に捕まっている証拠かもしれない。
そして俺の言葉にいちいち素直に感情を表す彼女が、可愛くてたまらなかった。
「私、店長の奥さんになるんだね?
この子のママにも……」
顔を上げた紗英の目には涙がたまっていた。
喜びと安堵の混じったような表情で、俺を見つめてくる。
「あぁ……そうだよ?俺もパパだな?」
照れたように笑いながらそう言うと、彼女もまたフフッと柔らかな笑みを浮かべた。
それから自分のお腹に手を当てて、愛でるようにそっと撫でた。