浮気の定理-Answer-
そういう意味で、紗英の妊娠はタイミングが良かったのだ。


しかも桃子も離婚に応じてくれる気配だった。


こんな結婚生活を続けていても意味がないことを、わかっているんだろう。


あとは、慰謝料の問題だけだ。


あとから、調べられて紗英のことがわかったりしても面倒になる。


全てを伝えた上で桃子に同意してもらう必要があった。



「別の女性と一緒になりたいんだ」



「慰謝料は、無しってことでいいだろ?」



「お互い様だもんな?」



紗英と一緒になることを少しだけ触れたあと、俺はそれを打ち消すかのように、次々と言葉を並べる。


最後のお互い様という言葉を発したとき、俯いていた彼女が驚いたように顔をあげた。


水落とのことを知られていたことへのショックなんだろう。


俺の離婚交渉が成功した瞬間だ。


お前が先に浮気したから、俺も浮気したんだと暗に伝えたのだ。


桃子にとっては忌まわしい記憶が甦ったに違いない。


俺のせいだとは微塵も疑うことなく申し訳なさそうな顔をして、桃子は慰謝料はなしでとの提案を素直に受け入れた。


もしかしたら、本来なら自分が払うべきだった慰謝料をなしにしてくれた俺に、感謝さえ述べたい気持ちなのかもしれない。


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