浮気の定理-Answer-
けれどそれは一瞬で、すぐにまたさっきの作り笑顔に戻すと、ホールで働いていた紗英にチラリと視線を移した。




「可愛い人ね?ずいぶん若いみたいだけど……」




頬杖をつきながら、舐めるように紗英を見つめる彼女に、妙な恐怖を感じた。


しばらくじっと見つめていた彼女は、何かに気付いたように眉間にしわを寄せた。


おもむろにこちらに視線を戻すと、俺を嘲笑うかのようにフンと鼻をならす。




「ふぅん……彼女、妊娠してるんだ」




ニヤリと笑った彼女に、俺はなにか重大なミスをしてしまったような気になった。


一番知られちゃいけない相手に、弱味を握られてしまったような気分だ。


ランチのほうれん草とベーコンのクリームパスタが運ばれてきて、彼女は俺を横に立たせたままそれを一口食べる。




「まあまあ……かな?」





そう言ってカシャンとフォークをテーブルに置くと、もういらないとでもいうように、席を立つ。


バカにされたような気分になって口を開きかけたとき、彼女が被せるように言った。




「じゃあ、終わる頃また来るから

パスタは60点てとこかな?」

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