浮気の定理-Answer-
ごちそうさまと言って、彼女は一口しか食べていないランチの金をレジで払うと、振り返ることなく出ていった。


ゴクリと唾を呑み込む。


――なん、なんだ……いったい……


呆然と立ち尽くしていると、紗英がパタパタと近づいてきた。




「店長?お知り合いだったんですか?」




不安そうな顔で俺を見上げる紗英に、なんとか笑顔を作り安心させる。




「あぁ、ちょっと昔の知り合いなんだ

だから心配しなくていいよ?」




紗英にはそう優しく声をかけたけれど、俺の胸はざわついていた。


――大丈夫だ、紗英のことは桃子にちゃんと伝えてあるんだから……


必死にそう自分を納得させて、今夜あの女に何を言われるのか考える。


それでも文句を言われることくらいしか思い浮かばなかった。


どうせ、大好きな桃子がフラれたことに我慢できないだけだろう。


――いくらでも聞いてやるさ、愚痴くらいなら。


テーブルの上に乗ったままの、まだ温かい皿を手に取る。


一口だけしか食べられなかった皿はこんもりとしていて、誰かに食べてほしそうだった。

< 168 / 350 >

この作品をシェア

pagetop