浮気の定理-Answer-
店の扉を叩く音がして、俺は現実に引き戻された。


あの女がやってきたんだろう。


一つだけ照明をつけた薄暗い店内から、女性のものらしいシルエットが見える。


キッチンに近い席に腰を下ろしていた俺は、ゆっくりと焦らすように立ち上がった。


苛立ったようなドンドンドンという音が狭い店内に響き渡る。


カチャリ――


鍵を開けて一枚板で出来た重厚な扉をそっと開いた。


磨りガラスに映っていたのはやはり吉岡真由で、不貞腐れたような顔でこちらを見てる。




「そんなに叩いたら壊れるんだけど」




嫌味の一つでも言いたくて、俺は女を睨み付けながらそう言い捨てた。




「そんなにチャチなんだ、このドア。

それより、来るのわかってんだから、早く開けてよ」




嫌味を言い返す女に苛々しながら、顎で中に入れとしゃくった。


通りすぎ様に、女は俺を見上げてニヤリと笑う。




「逃げたかと思った」




馬鹿にした口振りで、挑発するような態度をとりながら、俺の横をすり抜ける。


――この女、なんなんだ!


戸惑うことなく、どんどん中に入っていく彼女の後ろ姿を眺めながら、俺は扉のドアをしっかりと閉めた。

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