浮気の定理-Answer-
心臓の音が静かすぎるのだ。


普通なら男に押し倒され、辱しめをうけそうになっていたら、鼓動が早くなってもおかしくないのに……


恐る恐る顔を上に向ける。


そこには醒めた顔をして呆れたように睨み付けてくる、吉岡真由の姿があった。




「お前!怖くないのか!」




不気味すぎる女の眼差しに怯みながらも、必死にそれを悟られないように大声で叫ぶ。




「……別に?やりたきゃやりゃあいいじゃない

その代わり終わったらそのまま警察に行くだけだけど」




にやりと笑って見せる余裕まである彼女を見て、俺は恐ろしさに震えた。


この女なら、やりかねない。


本当に俺に犯されたと警察に行くつもりなんだろう。




「ま、その前に邪魔が入る可能性もあるんだけどね?」




そう言って差し出されたのはスマートフォンだった。


次の瞬間、バタンと激しくドアが開け放たれる。


開けられたドアから入ってきたのは、息を切らして吉岡真由に駆け寄る男の姿だった。




「真由ちゃん!」




呆然と女を抱き起こす男の様子を見つめながら立ち尽くす。

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