浮気の定理-Answer-
「私たちがここに来たことは、桃子には言わないで

それから慰謝料を払うってことは、自分で桃子に伝えるのよ?

ちゃんと振り込むのを確認しなければ、いつでも警察に行ってあげるから」




女は念を押すようにそう言って、男と一緒に店を出ていった。


男の方は俺になにか言うことはなく、吉岡真由を必死に宥めていたところを見ると、彼女が無茶をしないように見張りに来たといった役割なんだろう。


それは同時にあの女が無茶をするのがわかっていて、あえて止めるわけでもなく、ここに放り込んだってことにもなる。


もしかしたら――


水落もあの女に脅されたんだろうか?


あの狂気にも似た桃子への執着心は、自分がどうなろうと構わないという捨て身の覚悟さえ持っている。


証拠が残らないよう消してしまった水落のアドレス。


いまさらそれを確認することは出来ないけれど……




「ははっ……」




確かめたところで、200万を払うことに変わりはないんだと、俺は自嘲気味に笑った。


一つしかついてない電気の光が、俺の姿に影をつける。


それが妙に小さくて、今の自分を照らし出しているような、そんな情けない気持ちでその影をいつまでも見つめていた。

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