浮気の定理-Answer-
BARにて⑤



「すいません、なんか強い酒、ください」



カウンターの客にそう声をかけられて、すばやく服装に目を通した。



「かしこまりました」



頷きながらそう言って、ウォッカベースでいいだろうかと頭をめぐらす。


この店は立地のせいか、わりとサラリーマンが多く、スーツの客が9割を占めていた。


それ以外の1割も私服とはいえキッチリとお洒落に着こなしたお客様がほとんどだ。



「お待たせいたしました」



氷を浮かべたグラスには、ご希望通りの強い酒。



「ありがとう」



そう言って一気に飲み干したこの男性は、きっと酒に強くないはずだ。


首まで真っ赤にして無理矢理呑んでいるといった様子に、思わず顔をしかめた。


作業着らしい紺色の服は、かなり使い込んでるようで、あちこち汚れていたり、穴が開いたりもしている。


一風変わった来客に、常連客も遠巻きに見ていた。


場違い、といったら失礼かもしれないが、この格好ならば近所の居酒屋の方が浮かずにすんだだろうにと、心の中でため息をつく。
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