浮気の定理-Answer-
BARにて⑥


「もしもし?

いつまでそこにいるつもりなんだ

今なら許してやるから、早く帰ってきなさい

え?何を言ってる

そんなこと、出来るわけないだろ?

いい加減にしろ!

誰に向かって言ってるんだ!

おい!ちょっと待て!おい!」




カウンター席に座る目の前の客は、どうやらなにかトラブってるらしい。


空いてる時間帯だからいいようなものの、もっと混みあっているときならば注意しなくてはならないくらいの音量だ。


今はまだ客もまばらで、カウンターにはこの男性しか座っていないから、聞き流して目を瞑ってあげている。


グラスをキュッキュッといい音をさせて磨きながら、チラリとその男性を見た。


わりと大柄な、それでいて神経質そうな顔。


眉間にシワを寄せているからそう見えるのか、キチッと糊の聞いたワイシャツを着ているからそう見えるのか……


あまりこういうbarには慣れない様子の男性は、スマホを閉じてテーブルに置くと、姿勢よくチビチビとグラスを傾けている。


財布から出した写真を片手に、意気消沈しているといった感じだ。

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