浮気の定理-Answer-
明るくなった廊下の奥にある、リビングから放つ闇。


すりガラスになっている間仕切りのドアから、それはひっそりと見えていた。


ゴクリと唾を呑み込みながら、いまだ帰らない妻への怒りがさらに強くなる。


なぜ俺にこんな思いをさせるのか……


家で家事と子育てさえしてくれればいいように、妻には不自由のない生活を与えてやってるつもりだ。


そのために毎日必死に働いて、下げたくもない頭を下げてる。


なのに……


ドアを勢いよく開けてから、すぐ脇にあるはずのスイッチに指を這わす。


その瞬間、目の前が明るくなって、俺はようやく安堵した。


幼い頃、両親は共働きで、俺はいつも一人で鍵を開け、一人で電気をつけて、一人で用意されてある夕飯を食べていた。


それでもすぐに母親は帰ってきたし、それほど寂しくはなかったけど……


ある日、父親が突然家を出てからは、それまでの生活が一変した。


女手一つで俺を育てるために、昼も夜も働いて、母とは朝学校に行く前の少しの時間しか顔を合わせることがない。

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