浮気の定理-Answer-
なぜ父は出ていったのか?


それが離婚したからだということは、ずいぶん後に知った。


母はそれについて何も教えてはくれなかったし、俺もあえて聞くことはしなかった。


暗い暗い部屋で一人きりの時間を過ごす俺は、寂しくて怖くて、母にだけは捨てられないように、必死でいい子でいようとしてた。


それでも、母の思うように出来ないときもある。


そんなとき、母は俺に手をあげることが多かった。


一人で俺を育てながら必死に働いているのだから、それも仕方がなかったのかもしれないと今では思うけれど、当時はそうは思えなかった。


自分が邪魔な存在なんじゃないかと、脅える日々。


捨てられるんじゃないかという恐怖。


殴られても蹴られても、そのあとに訪れる母の温もりに、妙に安堵したのを覚えている。


電気をつけっぱなしにしていると、叱られることがわかっていたから極力暗闇の中で生活してた。


母が帰宅するのは俺が寝静まったあとだったし、きっとそんな風に生活していたことを、母は知らない。


今でも暗い部屋を見ると、あのときのことを思い出す。


あの幼い頃の、恐怖と悲しみを……

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