浮気の定理-Answer-
玄関の鍵を開ける音がした。


ドアが開いてしばらくすると、無邪気な舌足らずな声が俺を呼ぶ。



「パパぁ!」



俺はさっきまでの恐怖と怒りを瞬時に消し去って、いつもの、花にとって優しいパパの顔を作った。



「おー、花、お帰り」



彼女は嬉しそうに俺に抱きついて、抱っこをせがむ。


抱き上げると、雪の中を歩いてきたせいか、花の頬っぺたは冷たくなっていた。


静かな怒りがまた俺を支配する。


花を寒い中、こんな時間に外を歩かせたことや、いまだリビングに顔を見せない涼子に対する怒り。


パパ?と首を傾げる花に、にっこり微笑んだあと、ゆっくりと彼女を下ろした。



「ママを呼んでおいで?」



「うん!」



俺が怒っていることなど微塵も感じていないだろう花は、素直に玄関に向かってパタパタと可愛らしい足音を立てていった。


花とは対照的に、俺に怯えてるはずの涼子を迎えに……


帰ってきたときから感じてたこの匂いはカレーだろう。


てことは、今日はあのいつものメンバーとの定例会だ。


毎月一回、映画を見てランチをするというのが、彼女の唯一の楽しみらしい。

< 215 / 350 >

この作品をシェア

pagetop