浮気の定理-Answer-
友達と出掛けることも、実家に花を預けることにも、禁止しているわけじゃない。


俺の働いた金で遊ぼうが、買い物しようが、節度を守ってさえくれれば問題はないのだ。


月に一度の作りおきのカレーにだって、文句をいったことはない。


ただ、俺が帰るまでには家にいて、ちゃんと明かりの灯った部屋で出迎えてほしいだけ。


たったそれだけのことなのに、守れないなんておかしいだろ?


花に連れられておずおずとリビングに顔を出した涼子に、俺は花の手前優しく「おかえり」と声をかける。


涼子は怯えたような顔をして、どもりながら「ただいま」と答えた。


早く食事を終わらせて花を風呂に入れてしまおう。


そして早く寝かしつけて、涼子を言い聞かせなきゃならない。




「腹、減った」




ポツリと言うと、涼子は弾かれたようにキッチンへと向かった。


もう出来ているカレーを温めるために……


震えていた手が、ようやく止まり、首をコキッと鳴らす。


甘えてくる花の手を引いて、いつもの席に座らせた。


俺の前で涼子の横。


母親が娘を甲斐甲斐しく世話する姿を見るのが好きだった。

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