浮気の定理-Answer-
何も作られていないキッチンは、朝の洗われていない食器がそのままになっている。


ハッとしてリビングを出ると、俺は寝室へと向かった。


乱暴に開け放たれたドアの向こう側には、乱れたクローゼットの中身が見えている。


まさかまさかまさか……


空き巣のわけはない。


他は乱されてはいないのだ。


ビジネスバッグがゴトリと床に落ちる音が聞こえて初めて、俺は自分が鞄を握りしめたまま動いていたことに気づいた。


震える足をなんとか動かして、クローゼットに近づいていく。


慌てていたのか、引き出しも開けっぱなしだ。


ハンガーから滑り落ちた俺のスーツが、ダランとぶら下がっているのが見える。


全部ではないが、涼子と花の衣類がなくなっていた。


旅行に使う鞄も見当たらない。


まさかまさかまさか……


さっきの不安が現実になっていく。


なぜだ?花に手をあげないと約束しただろ?


遅くさえならなければ、俺はいつだって優しく二人を迎え入れていたはずだ。


なに不自由なく生活だってさせてた。


なのになんで……?

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