浮気の定理-Answer-
どうしようもない不安と共に、沸き上がるのは怒りだ。


俺がいなきゃなにも出来ないくせに!


俺のおかげでなに不自由なく暮らせていたくせに!


なんだ?これは!


乱れたクローゼット、洗われていない食器。


家のことを全て放棄して、花を連れて出ていくなんて……


ダンッと乱暴に壁を殴り付けた。


この怒りをどこにぶつけたらいいのかもわからない。


しばらくその場に立ち尽くし怒りに震えていた俺は、ハッと我に返り落ちたビジネスバッグを拾い上げた。


スマホを取りだし、涼子の実家の番号を呼び出す。


すぐに出たのは、涼子の母親だった。




「はい、広瀬です」




「もしもし?ご無沙汰してます、勇ですが

涼子と花がそちらにお邪魔していないでしょうか?」




努めて冷静に、なんでもないふりをして穏やかな声を出す。




「あら、お久しぶりね?

涼子なら、来てないけど……まだ帰らないの?」




嘘だ。そう瞬時に思った。


この母親ならば、いないと言った時点で取り乱して心配しそうなものなのに、いやに落ち着いている。




「お母さん、嘘はつかないでください

いるんでしょう?そこに」
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