浮気の定理-Answer-
まあ、いい。


いる場所はわかっているのだ。


慌てなくても、俺から逃げることなど出来ないに決まってる。


今夜は久しぶりに実家で母親に甘えればいいさ。


一泊くらいならどうってことない。


明日には連れ戻し、またお仕置きを与えれば、涼子は俺に服従するだろう。


いつも通り仕事に行き、帰りに涼子の実家に寄ればいい。


そう決めた途端、さっきまでの猛烈な不安と怒りがおさまっていった。


上着を脱いでハンガーにかける。


ネクタイを緩めると、キッチンへと向かった。


放置された食器をそのままにしているのは、俺の美学に反する。


本来なら涼子の仕事であるそれを、俺は手際よく洗い始めた。


もともと一人暮らしが長かっただけに、家事は手慣れたものだ。


結婚してからは涼子に専業主婦という仕事を与えていたから、滅多に家のことをやることはなかった。


もし、それに疲れたのだとしたら、少しくらい手伝ってやってもいい。


俺はそこまで譲歩していた。


帰りづらいだろうから迎えにだって行ってやろうと、歩み寄ってやったのに……
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