浮気の定理-Answer-
冗談じゃない。あの母親のおかげで俺は暗い部屋に脅えるようになったのだ。


大学まで行かせてくれた事には感謝してるが、甘えた記憶も可愛がられた記憶もない母親から逃れてやっと出来た自分だけの家族に、あの女を入れるなんて虫酸が走る。


向こうから連絡してくることなど滅多になかったというのに、なんの用なんだろう?


躊躇しながらも、仕方なく俺は受話器を上げる。


ずっとかけていなくても、実家の番号というのは指が覚えているらしい。


コール音が鳴ってすぐに、母の声が聞こえた。




『もしもし?勇?』




さっきも感じたけれど、ずいぶん歳をとったような気がする。




「あぁ……留守電聞きました

なんの用ですか?お母さん」




他人行儀だと思われるだろうが、俺の母に対する話し方はずっと変わらない。


昔から敬語で話すのが習慣になっていた。




『たまには、こっちに帰ってきたらどう?

母さんももう歳だし、そろそろ何かあったときのために、あんたにいろいろ話しておかなきゃと思ってね?』




「それなら遺書でもなんでも書いてくれればいいですよ

帰らなくてもすむ話でしょう?」


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