浮気の定理-Answer-
BARにて⑦
珍しい客にチラリと視線を向けると、少しだけ気まずそうな顔をした中年男性が、「同じものを」とおずおずグラスを差し出した。




「かしこまりました」




いつものようににこやかに、けれどそれ以上でもそれ以下でもない絶妙の距離感を保ちながら、グラスを受け取る。


以前、別れ話のもつれから大声をあげていたこの男性がこの店に足を踏み入れるのは久しぶりだった。


気まずそうに見えるのは、あのとき俺に注意されたからなのかもしれない。


あれから彼女の方は別の男性とよくここを訪れている。


この男とは違ってお似合いの爽やかな青年だ。


人には言えない関係にちゃんと終わりを告げて、前に進んでいるのだと少しだけ安堵したのを覚えている。


だから今日、この男が誰を待っているのか、それがとても気になっていた。


またあの子とよりを戻すわけはないとは思うが、男女の関係にまさかはつきものだ。


一人で飲みに来たにしては、そわそわと落ち着きなく腕時計を確認しているのを見ると、やはり待ち合わせなんだろう。




「おまたせいたしました」




そっとグラスを差し出すと、男は小さく頷いてこちらを見ないままグラスをあおった。
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