浮気の定理-Answer-
「お酒、飲んできたの?」



キッチンで食事の用意をしていた妻の手元が急にピタリと止まる。


見ると、痩せこけた顔の妻のギョロっとした目が、俺をじっと見ていた。


ゾクリと肌が粟立つ。



「誰と?」



ゴクリと唾を飲み込む。1人だったとはとても言えない雰囲気が、妻と俺との間にたちこめていた。



「いや、あの……」



視線をさ迷わせながらどう言おうか思案していると、ダンッ!と大きな音がしてビクッと体が飛び上がった。


ダンッ!ダンッ!ダン!ダン!ダン!ダン!


恐る恐る妻の方に目線を向けると、豚肉かなにかを包丁の背で叩いてるように見える。



「豚肉、こうすると筋がなくなって柔らかくなるの」



「……あ、あぁ、そうなんだ」



声が上擦る。けれど、それを悟られないように必死だった。


やがて妻は包丁をゆっくりと置いて、小麦粉をはたきはじめる。



「それで?誰と、どこで飲んできたの?」



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