浮気の定理-Answer-
一心不乱に豚肉に小麦粉をはたいている妻の手元を見つめながら、俺は仕方なく口を開いた。



「先輩……と、少しだけ」



どうしても歯切れは悪くなる。


妻の前で先輩の名前を出すことは、NGワードもいいところだ。


けれどこの状況で嘘をつけば、ますます事態は悪化する。


せめて誠意を持って答えることが、妻への罪滅ぼしになるんじゃないかと思っていた。


小麦粉をはたく手が止まる。


その手が、今度は乱暴に豚肉を卵液の中へと放り込んだ。


ピチャッ!と音がして、周りに液体が飛び散るのが見える。


何も言わないままの妻に恐怖を覚えながら、俺もそれ以上は何も言えなかった。
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