浮気の定理-Answer-
「どうして……」



「えっ?」



妻のつぶやくような小さな声が聞こえて瞬時に顔を上げてそう聞き返す。


けれど彼女はそれには答えず、今度はゆっくりと豚肉のかたまりをパン粉につけ始めていた。


その姿を眺めながら、妻をこんなふうにしてしまったのは、自分なんだと改めて認識させられる。


先輩に先ほど聞かされた事実が、余計に自身を惨めにさせた。




『真由が結婚することになった』




ショックじゃないと言ったら嘘になる。


俺と別れてすぐに結婚すること。それは真由が俺になんの未練もないことを示している。


いや、元々愛情などなかったのかもしれない。


今思えば、真由が俺に執着していたのは初めて結ばれることになった時までだったように思う。


それから後は俺から連絡しなければ会うこともないような、危うい関係だったのだ。


あのバーで俺を待つ彼女が好きだった。


美味しいお店を教えて?と可愛く甘える真由を愛しいと感じた。


当たり前の幸せを壊してでも手に入れたいと思った彼女は、今はもう違う男と結婚しようとしている。


そして俺に残ったのは、修正がきかないほどボロボロになった妻と家庭だけだ。

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