浮気の定理－Answer－
「……ねぇ」


そう声をかけられてハッとする。


いつの間に作業を中断していたのか、妻が手を止めてじっとこちらを見ていた。


「どうした？」


そんなはずはないのに、真由のことを考えていたことがバレたのではないかとヒヤッとする。


慌てて頭を切り替えながらそう聞き返すと、妻は睨むように俺を凝視しながら、口角だけをゆっくりとあげて、手元を見ることなくパン粉をまぶした豚肉を油の中に放り込んだ。


途端にジュワッと油のはねる音がする。


しんと静まり返った部屋の中で、揚げ物の音と奇妙な笑みを浮かべた妻の顔だけが、浮かび上がっていた。


「ど、どーした？」


うわずりながらももう1度、そう聞いてみる。


微動だにしなかった妻の目が1度ゆっくりとまたたいて、上がっていた口角はそのままに首を少しだけ傾けた。


「なんで、吉岡さんと会ったの？」


ゴクリと唾を呑み込む。やはり先輩の名前はNGワードだったのだと後悔した。


「は、話があるって、先輩の方から呼び出されたんだ」


決して俺からコンタクトをとったわけじゃないと、そう言いたかった。


けれどそれは逆に墓穴をほっただけだったのだと、この後知ることになる。



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