浮気の定理－Answer－

「なんのために……」



ブツブツと呟く妻を宥めようと、彼女に近づいていく。


『なんのために』というセリフは、先輩と会った理由なんだと俺はそのとき思ってた。


だから、言ってしまったんだ。



「先輩から娘が結婚するって話があって……」



『真由』とか『彼女』とか、そういうフレーズを出さないよう細心の注意を払いながら言葉をつなぐ。


あの子はもう結婚するらしいんだと、そう言えば妻も安心するんじゃないかと、そう思いながら。


きっと俺は妻の気持ちよりも自分が責められないことばかりを考えていたんだと思う。



「そうじゃない！」



急に大きな声で叫ぶ妻に、ビクッとなる。


手を伸ばせば届きそうな距離で、俺は足を止めた。



「私が！なんのために吉岡さんに話をしに行ったと思ってるの？あなたが！きっと合わす顔がないと思ったからじゃない！だから、頼みに行ったのに！

なのに、なに？私の知らないところで、お酒を飲みながら娘の結婚話？馬鹿にしないでよ！」



わなわなと身体を震わせながら興奮気味に叫ぶ妻に、俺は愕然とした。