浮気の定理-Answer-
「あ、お父さん、お帰り」


「あぁ、ただいま……母さんは?」


「あれ?いない?さっきまでリビングにいたんだけど……ごめん、私これから出掛けなきゃいけないんだ。行ってきます」


慌てた様子でそう言いながら、俺の横をすり抜けて、バタバタと出ていってしまった。


25歳になる娘は、看護学校を出て、看護師として働いてる。


たまにこうして夜勤もあるらしい。


仕方なく、俺はリビングへと向かった。


娘は妻がさっきまでいたんだと言う。


それならなぜいつものように出迎えないのだろう?


不思議に思いながら、リビングのドアを開けると、ダイニングテーブルの椅子に腰かけて微動だにしない妻の姿がそこにあった。


電気はついている。


それなのに、そこの空間だけは闇に包まれたような雰囲気だった。


「智子、ただいま」


俺が入ってきても、一向に顔を上げることなく一点を見つめる妻に、声をかけてみる。


それにはすぐに返事をしないまま、妻はゆっくりと顔を上げた。

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