浮気の定理-Answer-
フッと笑い声が聞こえた気がして、妻の顔を見た。
さっきまで怒りに震えていたはずの妻が、今度は声を上げて笑っている。
「……智子?」
気でも触れたんじゃないかとそっと声をかけると、彼女はひとしきり笑ったあと、にっこりと笑みを浮かべた。
「なに言ってるの?あなたにそんなこという権利なんかないのよ?逃げようったってそうはいかない。あなたは一生、私の側にいて償ってもらうんだから」
けたたましい笑い声が再びリビングに響き渡る。
俺はゴクリと唾を飲み込んだままその場に立ちすくんだ。
そして、これからのことを思いながら呆然と妻を見つめる。
見抜かれていたのだ。
妻に逃げるなと言われて初めて自覚した。
俺は妻から逃げたかったのだと。
妻のためとか言い訳しながら、反省しているふりをしながら、本当は自分がこんな生活に嫌気がさしていたのだ。
妻はそれにとっくに気づいていて、そしてなお俺にもっと不自由な生活をしろと、自分が味わった屈辱はこんなものではないのだと、暗にそう言っている気がした。
浮気の代償はこんなにもむごい。
いっときの快楽は、それさえかき消してしまうほどの闇を連れてくるのだ。